福井地方裁判所 昭和40年(ヨ)124号 決定 1965年7月29日
申請人 福井新聞労働組合
被申請人 株式会社福井新聞社
主文
被申請人は、福井市大和町一、三〇二番地福井新聞会館四階四〇三号室(同階洗面所及びこれらに至る従業員通用路を含む)、同室備付電話、一階従業員通用口所在組合専用掲示板につき、申請人が正常な組合活動に必要な限度でなす使用を妨げてはならない。
申請費用は被申請人の負担とする。
(注、無保証)
理由
当裁判所は本件疎明により次の事実を認定した。
被申請人(以下会社という。)は日刊新聞発行を主たる業務とする株式会社であり、申請人(以下組合という。)は会社従業員が組織する労働組合であるが、組合は会社了解の上昭和三八年一一月から、福井新聞会館四階四〇三号室を組合事務所として、一階従業員通用口所在掲示板(上下二枚の内下のもの)を組合専用として、それぞれ無償で使用し、また同年一二月から四〇三号室備付電話を無償で使用してきた(なお四〇年二月からは使用料として月五〇〇円を会社に支払つている模様である)。そして昭和四〇年三月八日付労働協約では、会社は組合事務所等の使用につき便宜をはかること、会社は組合の組合専用掲示板設置を認めること、を確約した。ところが会社は昭和四〇年七月五日四〇三号室備付電話を使えなくしてしまい、また同月一一日以降数回にわたり組合専用掲示板の掲示物を撤去すると共に今後その使用を禁ずる旨の掲示をした。更に同月一五日以降一階従業員通用口で組合員の会館内立入を阻止し且つ四〇三号室に立入ることを禁ずる旨の掲示をした。
ところで以上の経緯に照すと、組合は四〇三号室、同室備付電話、掲示板につき協約、契約或は慣行による使用権を有し、会社はこれを許容すべき義務があることは明らかで会社が一方的にその使用を禁止することは、組合が著しく信義に反する様な使用をしたとか会社が代りの適当な部屋を提供する等特別の事情のない限り、例えそれが無償貸与であるとしても許されないと解すべきである。
疎明によれば昭和四〇年七月三日以降組合は管理規定に違反して四〇三号室の鍵を守衛室に預けていないことが認められるが、会社と組合とが労働争議に入つている情勢の下ではこれのみをもつて四〇三号室の使用を拒むのは妥当ではなく、その他組合が事務所等につき信義に反する様な使用をしたことの疎明は存しない。
縦令また組合の右使用権につき疑があるとしても、前記認定によると組合は四〇三号室、同室備付電話、組合専用掲示板のそれぞれにつき占有権もしくは準占有権を有していたものと認められ組合は少くともこれら占有権によつてその妨害の停止を求めうべき地位にあると解するのを相当とする(なお組合は昭和四〇年七月初め頃四〇三号室から書類等を搬出したことが認められるが、なお同室には組合所有の書類、ロツカー等が存在しているのであるから、組合は未だ占有の意思を放棄し又はその所持を失なつたものとはいい難い)。
次に本件仮処分の必要性につき検討する。疎明によると組合は現在福井県労働会館(福井市日ノ出町二丁目三〇五番地所在)を事務所としていることが認められるが、同所は設備も不完全であり又会社からかなり離れた位置にあるので、その不便は明らかであり又組合にとつて四〇三号室に存在する書類等が必要な場合があるとの推測もできる。結局今後組合が正常な組合活動を続けるには、その拠点として従前の事務所である四〇三号室、同室備付電話、組合専用掲示板を使用することが必要であり、もしこれが果されない場合は殊に労働争議中の本件組合においては著しい損害を蒙る惧れがあるといいうる。
なお法が使用者の組合に対する経理上の援助を禁じているのは、それが組合の自主性を損う虞れがあるからに外ならないところ本件程度の組合事務所の供与、電話使用料の免除は、未だ組合の自主性を損うものとは到底認め難い。
よつて会社は組合に対し組合が正常な組合活動をなすに必要な限度で四〇三号室、同室備付電話、組合専用掲示板の使用を認容すべきであるところ、組合の本件申請は主文記載の内容でその目的を達することができると認められるので、申請費用につき民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり決定する。
(裁判官 後藤文雄 高津建蔵 春日民雄)